関西には、航空や飛行機にゆかりのある神社がいくつもあります。
今回ご紹介するのは、滋賀県東近江市にある「今堀日吉神社」。
ここには少し異彩を放つ奉納品があるのです。
拝殿正面に祀られた木製プロペラ

その奉納品は「大東亜戦宣戦布告記念」と記された木製二枚羽根のプロペラです。
このプロペラは、戦時中に奉納されたもので、翼の部分には奉納者の名前が刻まれています。戦時下における地域の信仰と軍事のつながりを今に伝える貴重な遺物です。
八日市飛行場のすぐそばにあった神社
今堀日吉神社がある東近江市周辺には、かつて八日市陸軍飛行場(八日市陸軍航空学校)が存在しました。
戦争末期、この飛行場は訓練や出撃の拠点として機能し、多くの若い兵士がこの地で飛行訓練を受けていました。

神社はその飛行場からほど近い場所にあり、地域の人々にとって信仰の中心的な存在でした。
おそらく、奉納者もこの地で飛行場に関わっていた民間人、もしくは地域住民だったのではないかと考えられます。
つまり、このプロペラの奉納は「遠い戦地での勝利を願う祈り」を象徴しているのです。
プロペラに刻まれた「大東亜戦宣戦布告記念」
最も印象的なのは、プロペラに刻まれた「大東亜戦宣戦布告記念」の文字です。
この言葉から、奉納が1941年12月8日の宣戦布告、またはその記念日に合わせて行われたことが想像できます。
当時の日本社会では、戦争を「国家の一大事」として受け止め、地域ごとに戦勝祈願や出征兵士への祈りが行われていました。このプロペラも、そうした「戦時の熱」を色濃く伝える存在です。

右翼には大きな筆文字のメッセージが書かれており、戦意高揚や武運長久を願う内容であったと推測されます。
奉納プロペラの特徴と推定される機種
奉納されたプロペラは、木製で二枚羽根という点も重要です。
この仕様は、主に訓練用航空機に使用されていたもの。
中でも、陸軍が多用していた九九式高等練習機(キ-55)のプロペラであった可能性が高いといわれています。

九九高練は、全国の飛行場で若い搭乗員を育てるために使われていた練習機。
もし今堀日吉神社のプロペラがこの機種のものだとすれば、それは「出撃前の訓練の地・八日市」を象徴する記憶の断片とも言えるでしょう。
戦争遺物であり、地域の祈りの証
今堀日吉神社のプロペラは、単なる戦争の遺物ではありません。
国家のために飛び立った多くの若者たち、そしてその姿を見送った地域の人々の祈りが形になったものです。

現在、このプロペラは、地域に刻まれた戦時の記憶として静かに残されています。
そしてそれは、「戦争を記念するもの」ではなく、「戦争を記憶するもの」として、今を生きる私たちに問いかけているようにも感じます。
おわりに
八日市飛行場の存在、木製プロペラという時代の象徴、そして戦時下に生きた人々の祈り。
関西各地をめぐる「プロペラ奉納神社」シリーズの中でも、今堀日吉神社は特に「地域と空」の関係が色濃く残る場所でした。

次回は、また別の「プロペラのある神社」を訪ねてご紹介します。
過去に訪問したプロペラがある神社はコチラ。
関空のお膝元、泉佐野市にある航空神社
奈良の立派な木製プロペラがある矢田坐久志玉比古神社
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