金曜の朝6時、デリーから列車で約3時間タージマハルのあるアグラに到着。
タージマハルは金曜日定休日で、ホテルのチェックインするにもまだ早いので、アグラの駅で荷物を預けアグラ要塞に行ってみる事にした。
アグラ城塞(アグラフォート)とは
インド、アグラの地にそびえ立つアグラ城塞は、単なる歴史的建造物ではなく、ムガル帝国の壮大な歴史、権力、そして建築技術を現在に伝える生きた証です。1983年にユネスコ世界遺産に登録されたこの要塞は、1565年に皇帝アクバルによって建設が始まり、わずか8年でその主要な構造が完成しました。

1638年に首都がデリーに移されるまで、アグラ城塞はムガール王朝の主要な居城であり、政治の中心地として、軍事基地と王室の居城という二重の役割を担っていました。ヤムナー川のほとりに位置し、世界的に有名なタージ・マハルとも近接しているため、アグラを訪れる人々にとって必見の場所となっています。
軍事拠点として役割
城塞への入り口はいくつかありますが、特に注目すべきは、現在一般の観光客が利用する南側のアマル・シン門です。

この門は、かつて「アクバル門」として知られ、防御上の工夫が凝らされた三つの連続する入り口で構成されています。
写真は一つ目の門と二つ目の門の間のスペース。日本のお城で言う「枡形虎口」の様な構造になっている。侵入してきた敵をこの広場でくい止め、二方向から攻撃する仕掛けになっている。
そして、このアクバル門を越えた先に、壮大な公謁殿(Diwan-i-Am)へと続く印象的なスロープが現れます。
名もなき巨大スロープ(坂道)
アクバル門を抜けていきなり視界に入ってくるのが、この両側に壁がそそり立っている強大なスロープです。
正直なところ、タージマハルを見た時よりもインパクトがありアグラで一番印象に残った場所です。

この公謁殿へのスロープには、名前が付けられていた記録がなく、研究資料では、一貫して「ランプ」や「エントランスランプ」といった機能的な記述が用いられています。この「名もなき」という事実がとても気になり、調べるきっかけにもなりました。
スロープの役割を調べてみた
このスロープは、軍事的な強固さと、皇帝の権威を示す儀式的な要素の両方を兼ね備えていました。
軍事的な役割
このスロープは、単なる移動のための通路ではなく、設計自体が多面的な防御機能と実用性を追求した結果だということ。例えば、スロープは両側を高い壁に挟まれており、敵が攻め上がってきた際には、上部から石や丸太を転がして防衛できるよう設計。さらに、壁の小さな穴からは熱した油を流し込むことも可能で、侵入者を物理的、心理的に阻むための工夫が凝らされていた。

また、床面には深い溝が意図的に配置されており、歩行者だけでなく、馬や象が泥で滑りやすい状況でも容易に通行できるようになっていました。これは、日常の通行だけでなく、戦時における軍用動物の安全かつ迅速な移動を確保するという実用的なデザイン。さらに驚くべきは、スロープ全体の構造が音響を増幅させるように巧妙に設計されていたこと。これにより、わずかな物音でも反響し、侵入者の隠密行動を妨げる効果がありました。これは、視覚的な防御だけでなく、聴覚を利用した高度な警戒システムが導入されていたことを物語っています。
これらの特徴は、この通路が単なる権威的ではなく、敵の侵入を物理的、心理的に阻むための防衛施設だったことがわかります。壮麗な宮殿のような象徴性よりも、実用性と防御能力が最重要視された、極めて機能的な構造物であったと推察されます。
これらは、モンゴル由来のムガル帝国が騎兵中心の少しヤンチャなイメージを覆し、非常に洗練された軍事レベルを示す象徴になっています。
儀式的な側面
一方、儀式面では、このスロープは皇帝や高官が公謁殿へと向かうための主要なルートでした。公謁殿は、皇帝が一般市民の請願を聞き、国家の役人と会談し、司法を執り行い、さらには祭典や軍事勝利の祝賀、公衆礼拝の場としても使用される、ムガル帝国の中心的な公的空間でした。
このスロープは、まさにその権力の象徴たる場所への入口であり、皇帝の威厳ある入場を演出する役割も担っていたと考えられます。

また、象や馬といった大型動物の通行も想定されており、特にハウダ(象の背に乗せる輿)を乗せた象が公謁殿に到着する光景は、皇帝の権力と富を誇示する壮大な儀式の一部であったと推測されます。スロープの設計は、軍事的な実用性と、皇帝の権威を視覚的に表現する儀式性を巧みに融合させていたのです。

公謁殿自体も、アクバル帝の時代に赤砂岩で建設が始まり、シャー・ジャハーン帝によって白大理石で豪華に装飾されるなど、歴代皇帝のパトロネージ(支援)と建築様式の進化を反映しています。スロープは、このような進化する帝国の中心へと人々を導く通路であり、その終着点である公謁殿自体が、異なる時代の皇帝たちの痕跡を内包する複合的な空間であったことを示唆しています。
タージ・マハルとアグラ城塞
タージ・マハルが愛と美の象徴であるのに対し、アグラ城塞は権力、統治、そして軍事的な強固さの象徴として、異なる側面からムガル帝国を理解するための不可欠な要素です。シャー・ジャハーンが晩年を過ごし、タージ・マハルを望む窓から愛する妻の墓を見つめた場所としても知られており、物語性豊かな歴史の一端を現代に伝えています。

アグラ城塞のアクバル門を越えた公謁殿へと続く「名もなき」スロープは、ムガル帝国の多面的な特性を物語る建築物です。それは、高度な軍事技術に基づいた防御機能と、皇帝の威厳ある儀式を演出する通路という、二つの顔を持っていました。このスロープは、単なる物理的な通路ではなく、ムガル帝国の統治哲学そのものを体現する存在であり、その機能と歴史的背景を深く理解することで、ムガル帝国の真の姿をより鮮明に捉えることができるのかもしれない。
リール動画はコチラ
場所はコチラ
営業時間:6:00~18:00、もしくは日の出から日の入
定休日:定休日なし
料金:インド人50ルピー、外国人650ルピー


