アジアの古い街並みを歩くと、その土地ならではの伝統的な建築様式に目を奪われるます。今回は、台湾の伝統家屋「三合院(サンハーユエン)」と、中国北京の「四合院(スーハーユエン)」との違いについてご紹介します。私は以前は三合院を台湾固有のものだと、四合院を北京の胡同(フートン)特有のものだと思っていました。しかし、調べていくうちに、これらの伝統家屋が持つ広い歴史と地域性を知ることができました。
台湾の「三合院」とは?
台湾の田園風景の中に、ゆったりと構える瓦屋根の家屋。それが「三合院」です。その名の通り、「コの字型」に建物を配置し、正面に開かれた庭を持つのが最大の特徴。まるで両手を広げて来客を歓迎しているかのような、温かく開放的な雰囲気が漂います。

中央の建物は「正庁(ジェンティン)」と呼ばれ、一家の中心となる場所。多くの場合、先祖を祀る仏壇が置かれ、家族が集まるリビングスペースとしても機能します。その左右に伸びるのが「護龍(フゥーロン)」と呼ばれる建物で、分家した家族や親族が暮らすことが多い。三合院は複数世代が暮らす大家族の暮らしを支えてきました。

三合院の庭は、単なる空間ではなく、収穫した作物を乾燥させたり、子供たちが遊んだり、近所の人々との交流の場になったりと、生活の中心となる多機能なスペースでした。台湾の温暖な気候に合わせて風通しが良く、赤レンガと美しい装飾タイルが織りなす素朴ながらも趣のある外観は、見る人の心を和ませます。
北京の「四合院」とどう違う?
ここで比較したいのが、中国北京の「四合院」です。どちらも伝統的な中国の家屋ですが、その成り立ちと機能には明確な違いがあります。

| 特徴 | 台湾の三合院 | 北京の四合院 |
| 建物の形状 | コの字型(三方を建物で囲み、一方が開いている) | 口の字型(四方を建物で囲み、中央に庭がある) |
| 開放性 | 開放的。庭が前面に広がり、外部とのつながりがある | 閉鎖的。高い壁と門で外部と隔絶され、プライバシーを重視 |
| 主な役割 | 農村の住居。大家族の共同生活、農作業の場としても活用 | 都市の住居。富裕層や貴族の邸宅にも多く見られた |
| 気候への適応 | 温暖な気候に対応。風通しを重視 | 寒冷な気候に対応。日照と保温性を重視 |
| 庭の機能 | 生活空間、作業場としても活用。比較的開放的。 | 家族の憩いの場、行事、祭祀の空間。採光・通風の役割。 |
最も大きな違いは、やはりその建物の配置です。三合院が「コの字型」で開放的なのに対し、四合院は「口の字型」で周囲を壁で完全に囲みます。これは、それぞれの土地の気候や生活様式、さらには文化的な背景が色濃く反映された結果と思われます。

北京の四合院は、寒い冬の厳しい気候から家族を守り、外部からの視線を遮ることでプライバシーと安全性を確保しました。まるで小さな要塞のような造りは、大家族の秘密と格式を守る役割も担っていたのです。

一方、台湾の三合院は、温暖な気候の中で風通しを確保し、広々とした庭を生活の一部として活用できるよう設計されています。農作業が中心の生活の中で、家族や隣人との交流が生まれやすい、開かれた空間設計が特徴です。
「四合院」と「三合院」は地域を越えて存在する
これまで、四合院は北京、三合院は台湾の代表的な伝統家屋として話を進めてきましたが、実はこれらの建築様式は、特定の地域だけに限定されるものではありません。

四合院は、その起源を古代中国に持ち、北京以外にも中国北部を中心に広く見られます。 気候や地域の特色に応じて細部に違いはあるものの、中庭を囲む「口の字」型の配置という基本構造は共通しています。寒さの厳しい北方地域で、日当たりを確保し、外からの風雪を遮るためにこの様式が広く普及したのです。

一方、三合院もまた、台湾だけでなく、中国南部(福建省や広東省など)にも同様の様式が見られます。 特に台湾へ移住した人々が多くを占める福建省の建築様式と非常に似ており、ルーツを共有していることがわかります。温暖な気候の地域では、風通しを重視し、農作業などに開けた空間を利用するのに適した「コの字」型の配置が好まれました。

そして、台湾にも四合院は存在します。 台湾の四合院は、清代に中国本土から移住してきた人々が、故郷の建築様式を持ち込んだり、裕福な家屋や官公庁の建物として建てられたりしたものです。特に、北部の気候が比較的穏やかな地域や、風水的な理由から完全に閉鎖的な空間を望む場合に、四合院の形式が採用されることがありました。その数は三合院に比べて少ないものの、台湾の多様な文化の一端を示しています。

このように、私たちが一般的にイメージする「北京の四合院」「台湾の三合院」という結びつきは、それぞれの地域の代表的な事例として挙げられることが多いだけで、実際にはより広範な地域に存在する、中国伝統建築の多様な姿の一部なのです。
時代と共に変化する伝統家屋
現代では、都市化や核家族化の進行により、伝統的な三合院や四合院の数は減少傾向にあります。しかし、その独特の建築美や、大家族が共に暮らした面影は、今もどこかで垣間見れる事があるような気がします。
中には、モダンな要素を取り入れつつ大切に保存・活用されている三合院や四合院、あるいは宿泊施設として生まれ変わり、その魅力を訪れる人々に伝えている場所もあります。

台湾に行く機会があれば、田園に点在する三合院を訪れ、その素朴な美しさに触れてみるのもおすすめです。また、中国のほかの地域や台湾の都市部で出会える伝統家屋にも目を向ければ、土地ごとの文化や歴史の違いを体感できそうです。
