香港モンスターマンション

近年、香港を訪れる旅行者や写真家の間で、ある巨大な集合住宅が注目を集めています。香港島の鰂魚涌(クオーリーベイ)に建ち並ぶその建物群は、あまりにも密集した独特の景観から、いつしか「怪獣大廈(Monster Building)」と呼ばれるようになりました。

この場所はハリウッド映画のロケ地として使われ、SNSでも「映えるスポット」として拡散されています。しかし、その圧倒的なビジュアルの裏側には、香港の歴史や厳しい住宅事情、そしておよそ1万人が暮らす人々の生活と強いコミュニティが存在しています。

今回は、写真映えする景観だけにとらわれず、この巨大なコンクリート建築群がなぜ生まれ、今もどのように機能し続けているのか、紹介します。

5つの棟が連なる巨大複合体の正式名称

「怪獣大廈」という通称で知られていますが、これは一つの建物の名前ではありません。実際には、5つの高層住宅棟がつながってできた、非常に大きな集合住宅の複合体です。もともとの正式名称は「Parker Estate(百嘉新邨)」でした。  

香港モンスターマンション
英皇道側から見たモンスターマンション

この場所はマウント・パーカーのふもとにあり、その地名にちなんで名付けられたとされています。複合体を構成しているのは、次の5棟です。

  • 海山樓(Montane Mansion)
  • 海景樓(Oceanic Mansion)
  • 益昌大廈(Yick Cheong Building)
  • 益發大廈(Yick Fat Building)
  • 福昌樓(Fok Cheong Building)

これらの建物は、1階部分にあるショッピングアーケードでつながっており、上から見ると、E字やC字のような独特の形をした巨大なコンクリート建築群になっています。観光客がよく写真に収める、四方を高い建物に囲まれた印象的な中庭の景色は、まさにこの複雑な構造によって生まれたものなのです。

「世界で最も高密度」を生んだ切実な歴史的背景

Parker Estate(百嘉新邨)の独特な外観は、最初からデザイン性を狙って生まれたものではありません。これは、1960年代の香港が直面していた深刻な社会・経済問題に対し、極めて実用的な発想でつくられた結果なのです。  

住宅不足への対応

1950年代から60年代初めにかけて、香港には中国本土から多くの人々が流入し、人口が急増しました。その一方で、低所得者向けの住宅は圧倒的に足りず、深刻な住宅危機に陥っていました。

こうした状況の中、香港出身の実業家ワット・モウケイ氏とその企業は、鰂魚涌にあった太古糖業精製所の跡地を取得し、低所得者向けの公的性格をもつ住宅としてParker Estateを計画します。目的は観光開発ではなく、「住む場所を確保する」という切実な社会的ニーズに応えることでした。

「極端なまでの実用主義」

この複合住宅の設計は、建築の専門家から「極端なほどに実用的」と評されるほど、効率性を最優先したものでした。限られた敷地に、法律や規制が許すギリギリまで住戸を配置し、できるだけ多くの人が暮らせるよう考えられたのです。  

香港モンスターマンション
真上を見上げる

その結果、約11,000平方メートルの敷地に2,243戸もの住居が建設され、現在もおよそ1万人がここで生活しています。この驚異的な人口密度こそが、Parker Estateが「世界でも特に人口密度の高い場所の一つ」と呼ばれる理由なのです。

機能する垂直の村:超高密度の中にある日常

外から見ると、Parker Estateは圧倒的な迫力を持つ「巨大な迷路」のように感じられます。しかし、そこに暮らす人々にとっては、長年にわたり機能し続けてきた「垂直の村」のような存在です。

生活が完結する、自給自足のコミュニティ

Parker Estateは、単なる集合住宅ではありません。1階部分にはショッピングアーケードが広がり、干し物店、金物店、薬草茶の店など、地元密着型の商店が並んでいます。そこには、昔ながらの香港の暮らしの風景が今も息づいています。

香港モンスターマンション
低層は商店が多い

実際に住んでいる人の中には、「ここだけで生活に必要なものがすべてそろう」と話す人もいます。この内部で完結する経済と便利さがあるからこそ、世代を超えて人々が住み続けることができているのです。  

居住者にとっては「特別ではない、普通の場所」

話題になることの多いこの建物群ですが、住民にとってここは“怪物”でも“映画のセット”でもなく、ただの「日常の場所」です。

もちろん、高密度ならではの課題もあります。窓の外はすぐ向かいの建物ということも多く、風通しが悪い場所もあります。さらに、長い年月で溜まった煤やほこりによって、建物全体がどこか重たい雰囲気を持っていると感じる人もいます。

ここは「観光地」ではなく、人々の住まい

ハリウッド映画のロケ地になったり、SNSで拡散されたりしたことで、Parker Estateは世界的に知られる存在になりました。しかし、忘れてはならないのは、ここが約1万人もの人が暮らす私有地であるということです。

香港モンスターマンション
たくさんの観光客

観光客の増加によって、騒音やプライバシーの侵害、共用スペースの占有といった問題も起きています。そのため、現在は中庭などに注意喚起の看板が設置され、立ち入りやマナーに制限が設けられています。

訪れる際は、住民の生活を最優先に考え、静かに行動し、写真を撮る場合も個人が写り込まないよう配慮することが求められます。

怪物ではなく、人々が生きる「垂直の村」

鰂魚涌にあるParker Estateは、そのインパクトある外観ばかりが注目されがちです。しかし本当の姿は、戦後の深刻な住宅不足という社会課題に応えるために生まれ、今も人々の生活を支えている、香港の貴重な「生きた建築遺産」です。

もしこの場所を訪れる機会があるなら、単なる「フォトスポット」としてではなく、ここに息づく歴史や暮らし、そして強いコミュニティを感じ取る「垂直の村」として、静かにその空間に向き合ってみてください。

怪獣大廈の場所はコチラ

モンスターマンションのリール動画はコチラ

モンスターマンション近くにあるラーメン屋

モンスターマンションから歩いて10分程の場所にある六味屋さん!
ぜひこちらにも寄ってみては!

投稿者 iryota_gram

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です