インドネシア・中部ジャワ島。
世界最大の仏教寺院として有名なボロブドゥール寺院には、世界中から多くの旅人が訪れます。
しかし、そのすぐ近くの山あいに、もうひとつ異彩を放つ建築物があるのです。
地元では「ゲレジャ・アヤム(Gereja Ayam)」、直訳すると「鶏教会」と呼ばれるその建物。
正式名称は「ブキッ・レーマ(Bukit Rhema)」といい、宗教の垣根を越えて誰もが祈りを捧げられる「万民のための祈りの家」です。
今回は、この「ブキッ・レーマ」を紹介します。
急坂の先に現れる巨大な鳥
ブキッ・レーマが建つのは、中部ジャワ州マゲラン県、ゴンボン・クンバンリムス村の丘の上。
世界遺産・ボロブドゥール寺院からわずか約4.7kmの距離にあります。

最大の難関は、その行き道。
チケット売り場から建物まではかなりの急坂が続き、訪問者の多くは有料ジープによるシャトルサービスを利用します。
私は、有料ジープにちょうど乗り損ねたので、待つほどでもないと思い、息を切らしながら坂を登ることにしました。
私の横をローギアで進むジープが追い抜かします。
頂上に到着。鬱蒼とした緑の中に突如として現れる、巨大な鳥の形をした建物、理解できなさすぎて、感動すら覚える光景でした。
一人の夢から生まれた「万民の祈りの家」
この奇妙で壮大な建物は、単なる奇抜なデザイン建築ではありません。
そこには、一人の男の深い信仰と理想が込められています。

創設者は、クリスチャンのダニエル・アラムシャー氏(Daniel Alamsjah)。
彼は1988年、祈りの最中に「すべての人々のための祈りの家(House of Prayer for All Nations)を建てよ」という神からの啓示を受けたといいます。
ジャカルタ在住だった彼はその導きに従い、1992年、このマゲランの丘に建設を開始しました。
建物は7階建てで、本来は平和と統一を象徴する「白い鳩(Merpati Putih)」をモチーフにしていたそうです。
しかし、完成した姿があまりにも大きく、また形が独特だったため、地元の人々は「雌鶏」あるいは「鶏」に見えると呼びはじめ、「ゲレジャ・アヤム(鶏教会)」という愛称が定着しました。

さらに彼は、建物の近くに薬物依存や心の病を抱えた人々のためのリハビリセンターも設立。
この地を、単なる礼拝の場ではなく「癒やしと再生の場」にしようとしたのです。
廃墟から蘇った「映画の聖地」
しかしその道のりは平坦ではありませんでした。
資金難に加え、イスラム教徒が多数を占める地域社会からの理解を得るのが難しく、2000年には建設が中断。
建物は未完成のまま、長い間廃墟として忘れ去られてしまいます。
ところが2016年、インドネシアの青春映画『Ada Apa Dengan Cinta? 2(AADC2)』のロケ地に選ばれたのです。
映画のヒットとともに、この奇抜な建物は一躍脚光を浴び、国内外から観光客が殺到。
ブキッ・レーマは、「映画が観光を生む場所(Film-Induced Tourism)」の成功例として再生を遂げました。
今では観光名所としてだけでなく、ウェディングフォトの人気スポットとしても人気だとか。
内部に秘められた「人生の物語」
観光施設として整備された現在のブキッ・レーマは、訪れる人に「人生の旅路」を語りかける空間へと生まれ変わっています。

内部は7つのフロアに分かれ、それぞれに「祈り」「希望」「善意」「多文化共生」など、異なるテーマを持つ展示がなされています。
壁には地元アーティストによる絵画や写真が飾られ、静けさの中で自分の内面と向き合えるような空気が漂います。

そして何よりの見どころが、最上階の展望台。
鳥の「鶏冠(とさか)」部分にあたる場所からは、雄大な中部ジャワの山並みを一望でき、
天気が良い日には、遠く4.7km先にそびえるボロブドゥール寺院の姿をはっきりと確認できます。

まさに鳥の目線から世界を見下ろすような、特別な体験です。

坂を登った者だけが味わえる「ご褒美」のカフェ
息を切らしながら坂を登り、展望台を見終えたあとに立ち寄りたいのが、建物後方(お尻)にあるカフェ。
その名も「クダイ・ラキャット W’ダンク・カフェ(Kedai Rakyat W’Dank Café)」。
ここでは、地元産のコーヒーや軽食を楽しみながら、丘の風を感じることができます。

うれしいことに、入場チケットには揚げキャッサバ(フライドタピオカ)の無料サービスが含まれています。

外はカリッと、中はもちもちのこの伝統スナックを味わいながら、巨大な鳥の“尾”の部分に位置するカフェで休息をとる時間は、旅の最高の締めくくりとなるでしょう。
ボロブドゥールの「影」で輝くもう一つの奇跡
ブキッ・レーマは、宗教的な葛藤や資金難、そして廃墟としての時代を乗り越え、ポップカルチャーの力で再生を果たした稀有な建築です。
その存在は、インドネシアという多様性の国が持つ「柔軟な信仰」と「文化的包容力」の象徴とも言えます。

ボロブドゥールを訪れる際は、ぜひ少し足を延ばして、この巨大な鶏の建築を自分の目で確かめてみては。
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ブキッ・レーマ(Bukit Rhema)場所はコチラ
ボロブドゥール寺院より歩いて1時間

