タルトゥ駅

エストニア南部の都市タルトゥを日帰りで訪れた際、予定していた国立博物館には立ち寄れませんでしたが、代わりに印象に残っていたのが「タルトゥ駅舎(Tartu raudteejaam)」です。
19世紀後半に建てられたこの木造駅舎は、学術都市タルトゥにふさわしい落ち着きと品格がありました。

三部構成と木造装飾に見る19世紀の設計思想

タリンから鉄道で到着すると、開放的な駅前広場と木の温もりを感じる駅舎が目に飛び込んできます。三部構成の建物と横断切妻屋根という形式は、19世紀のロシア鉄道建築の典型。時代の設計思想が今も静かに息づいています。

タリン駅
タリンからタルトゥへ(タリン駅)

タルトゥ駅舎は、中央に待合室、両翼に管理室などを配した「三部構成」の対称的なデザインを採用しています。
この設計は、帝政ロシア時代に整備された鉄道網の中で、効率性と統一感を重視した「標準設計」の一つとされています。どこの駅も当時は似たようなデザインだったと思われます。

タルトゥ駅
左右対称で美しい

しかし、単なるテンプレート建築ではありません。軒下や破風には「鈍端の鋸歯状モチーフ(tömbi otsaga sakk)」と呼ばれる木の装飾が施され、機能的でありながら美しさを併せ持つ意匠となっています。こうした装飾は、当時の「歴史主義建築」が木造技術と出会った象徴でもあります。

木造駅舎が伝える地域性と温もり

鉄道駅といえば石造が多い中、木造である点もタルトゥ駅舎の特徴です。
木材が工業的に扱われ始めた時代、木造駅舎は装飾性と量産性を両立できる建築でした。
ファサードの梁や柱には今も当時の木彫が残り、職人の手仕事が感じられます。形式的な機能建築の中に、地域の工芸技術が息づいていることが分かります。

待合室の荘厳な「鏡天井」(Peegellaed)

外観のエレガントさに惹かれたら、ぜひ待合室(Ootesaal)ものぞいてみてください。
中に入ると、この駅がただ通り過ぎるだけの場所じゃなかったことが、きっと実感できるはずです。

タルトゥ駅舎内部
駅舎内部

待合室で目を奪われるのが、天井に見られる「鏡天井」(Peegellaed)と呼ばれる技法です 。これは、天井の中央部分を平坦またはわずかに高くし、周囲を傾斜面で囲む古典的なデザインです。この手法は、視覚的に空間をより高く、広く見せる効果があり、北欧の緯度の高い地域においては、限られた自然光を最大限に拡散し、室内を明るく保つ機能的な役割も果たしました 。  

タルトゥ駅待合室
タルトゥ駅待合室

待合室には、コーニスや開口部の枠組みなど、当時の職人技が光る装飾的な木工細工が、オリジナルの状態でほぼ完璧に残されています 。タルトゥが「学問の都」として栄え、多くの知識人や貴族階級が利用したこの駅舎が、都市の「玄関口」としての威信を伝えるために、いかに念入りに設計されたかが理解できます。  

修復と再生、過去を生かす現代の駅

タルトゥ駅建築当時
駅舎に展示されていた昔の写真

タルトゥ駅は1876年の路線開通に合わせて建てられ、翌1877年に供用を開始しました。
当時は市街地の外れにあり、並木道を通ってアクセスしていたといいます。
駅周辺には倉庫や車庫、給水塔などが設けられ、鉄道運営の拠点として機能していました。

タルトゥ駅ホーム
タルトゥ駅ホーム

2000年代には建築家Aivar Roosaarによる修復が行われ、2012年に再び利用が再開。
さらに2022年にはプラットフォームと地下通路が改修され、スロープやリフトが設置されました。

石造りが多い街にある木造建築

タルトゥ駅は、華やかな観光名所ではありません。
しかし、石造りの建物が多いタルトゥの街の中で、ひときわ温もりを感じさせる木造駅舎はとても印象的でした。
長い年月を経てもなお丁寧に保存されている姿からは、この街が自らの歴史と美意識を大切にしていることが伝わってきます。
ぜひタルトゥを訪れる際は、駅舎そのものにも目を向けてみてください。
石の街にそっと寄り添う木の温もりが、きっと心に残るはずです。

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投稿者 iryota_gram

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