ウラジオストク旅行中で、街の魅力を最も感じたのが「鷲ノ巣展望台」への道のりでした。短い距離ながら歴史と物語が詰まった、印象深いケーブルカー(フニクラー)です。
冷戦下の遺産、謎めいたフニクラー
ロシア極東の港町ウラジオストクは、ソビエト時代に指導者ニキータ・フルシチョフの都市開発構想の舞台となり、急峻な坂と近代的インフラが融合した街として知られます。
その地形から「ロシアのサンフランシスコ」とも呼ばれ、国家的プロジェクトとして美しい港町を目指して整備が進められました。

中でも、街と金角湾(Zolotoy Rog Bay)を一望できる「鷲ノ巣展望台(Orlinoye Gnezdo)」は必見の名所。
この展望台への主要なアクセス手段なのが、「フニクラー(Funicular)」です。
開通当初、フニクラーの主要な利用者は、丘の上下に位置していた極東州立工科大学のキャンパス間を移動する学生でした 。大学の一部がルースキー島に移転したことにより 、フニクラーの主な役割は学生輸送から観光目的に変わっています。

鷲ノ巣展望台がたつ鷲ノ巣丘(Orlinaya Sopka)は標高199メートル。フルシチョフは1959年の訪米でサンフランシスコのケーブルカーに感銘を受け、「ソビエトのサンフランシスコ」を掲げ、1962年にフニクラーを開通させました。

現在も稼働するこのフニクラーは、ロシア国内でもソチと並ぶわずか2か所しかない電気駆動式の傾斜鉄道のひとつ。
運行開始から60年以上経った今も当時の車両が現役で使われており、まさに「鉄の耐久力」を誇る遺産です。
運行情報と隠された乗り場
この歴史的フニクラーは、市の交通局の管轄下にあり、朝7時から夜8時(20時)まで約10分間隔で運行。

私は金角湾沿いのスヴェトランスカヤ通りから乗り場を探しましたが、海沿いには見当たらず、調べてみると下部駅は一本内陸のプーシキン通りにあることが判明。
しかもその間には大学キャンパスがあり、構内を抜けてようやく駅舎へ。駅は周囲の建物に完全に溶け込み、観光地とは思えないほど控えめな存在でした。

フニクラーの全長はわずか183メートル、所要約1分半。料金は22〜24ルーブルと格安で、短いながらも印象的な坂上り体験です。
殺風景な頂上と水たまりの道
フニクラーで丘を登ると頂上駅に到着。そこから展望台まではすぐですが、周囲は観光地らしからぬ静けさでした。

ちょうど雨上がりで、道は大きな水たまりだらけ。さらに展望台へ行くには大通りを横断する必要があり、地下道を通るのが通常ルートですが、その地下道は雨水で浸水していて通れませんでした。

鷲ノ巣展望台からの眺め
展望台からの眺め。
ウラジオストクの街並みと、金角湾を跨ぐゴールデン・ブリッジ(Zolotoy Bridge)の姿が一望できます。

曇り空ではありましたが、丘陵地に広がる街と海、橋のコントラストは美しいです。
展望台周辺には、スラブ文字の創始者キリルとメソディウスの記念碑や、アムールヒョウの壁画もあり、歴史と文化の調和を感じさせます。

この「鷲ノ巣展望台」と「フニクラー」の組み合わせは、旧ソ連の夢、技術、そして現代の街の状況がわかる旧社会主義国家観を感じれる体験でした。
