徳島県美波町(旧日和佐町)にある四国霊場第23番札所・薬王寺(やくおうじ)。 美波町の街並みを歩いていると、山腹に建つひときわ存在感のある大きな塔が目に入ります。まさに日和佐のアイコン的な存在です。
薬王寺の瑜祇塔(ゆぎとう)へ
仁王門をくぐり、階段を一段一段上ってまずは本堂へ。そして本堂の奥へと進み、さらに階段を上った高台に、その「瑜祇塔」が堂々とそびええ立っていました。

間近で見上げてみると、私たちが普段見慣れている五重塔や多宝塔とは明らかに姿が違います。変な形しているなというのが第一印象でした。

一目でわかる違和感?瑜祇塔のめずらしい建築的特徴
五重塔や三重塔のような層塔は、各階すべてが四角形(方形)をしています。また、多宝塔は下層が四角で上層が丸くなっています。 しかし、この薬王寺の瑜祇塔は、そのどれとも異なる独自の構造をしています。
- 四角い「基壇(きだん)」
入口がある土台部分は、一辺25メートルの四角い構造になっています。 - 円筒形の「塔身」
四角い基壇の上に載っているのは、朱塗りと白壁が鮮やかな完全な「円筒形(丸い筒型)」の層です。 - 四角い「大屋根」
丸い塔身のてっぺんには、四角錐状に広がる四角い屋根が架けられています。 - 屋根の上に林立する「5つの相輪(そうりん)」
通常の塔は屋根の頂点に1本だけ相輪が立ちますが、瑜祇塔は中央に1本、屋根の四隅に4本、合計5基もの相輪が立っています。
「下が丸くて、上が四角」という立体的な組み合わせ、そして屋根に林立する5本の相輪。仏塔建築を見慣れている方でも驚くほど珍しい外観です。

なぜこの形?真言密教の経典に描かれた「五峯八柱」
瑜祇塔の設計は、真言密教の根本経典に基づいています。
- 上方の四角い屋根と5つの相輪
「金剛界(こんごうかい)」の知恵をあらわす「五峯(ごほう)」を示しています。 - 下方の円筒形と8本の柱
「胎蔵界(たいぞうかい)」の理論をあらわす「八柱(はっちゅう)」を示しています。

密教では、相反する二つの世界(智と理、天と地)が調和して一つになることを「金胎不二(こんたいふに)」や「天地の和合」と呼びます。薬王寺の瑜祇塔は、上が四角で下が丸いという立体造形そのものによって、この密教の崇高な教理を表現しているのです。

この塔は弘法大師の四国八十八ヶ所開創1150年などを記念して、昭和38年(1963年)に建立された鉄筋コンクリート(RC)造の建物です。高さは塔本体だけで29メートル、基壇を含めると約35メートルにも達します。
基壇からの大パノラマと、漆黒の闇を進む「戒壇巡り」
瑜祇塔の敷地へは無料で入ることができ、四角い基壇の屋上からは、日和佐の美しい街並みや日和佐城、遠く太平洋までを一望する見事なパノラマが広がっていました。

そして、瑜祇塔の内部へ。1階(基壇部分)の中央には本尊である「金色五智如来」が祀られており、周囲は展示室になっています。
さらに、入場して左手にある階段を下りると、地下に広がる「戒壇巡り(かいだんめぐり)」を体験できます(有料)。

実は全国に数カ所だけ!希少な瑜祇塔めぐり
あとから調べて驚いたのは、参拝できる大型の瑜祇塔が全国でも5カ所ほどしかないという点です。
- 徳島県:薬王寺(今回訪れた塔)
- 和歌山県:高野山金剛峯寺
- 兵庫県:淡路島・八浄寺(瑜祇七福宝塔)
- 愛知県:高徳院(薬王寺の設計図面を参考に建立)
- 福岡県:篠栗町・呑山観音寺(木造の瑜祇大宝塔)
薬王寺のある徳島へ向かう途中に通過した淡路島の八浄寺にも瑜祇塔があったほか、九州の呑山観音寺には全国でも珍しい「木造」の瑜祇塔があるとのことです。複雑な接合を木造でどのように組み上げているのか、次回はぜひ九州の瑜祇塔も訪れてみたいと思います。
薬王寺 瑜祇塔の基本情報まとめ
- 所在地
徳島県海部郡美波町奥河内字寺前26-1(四国八十八ヶ所第23番札所 薬王寺境内) - 建立年
昭和38年(1963年)9月20日 - 構造・規模
鉄筋コンクリート造、塔高29m(基壇含む総高 約35m)、基壇一辺25m - 本尊
金色五智如来(基壇・1階)、薬師三尊(地下戒壇巡り) - 建築的特徴
四角い基壇、円筒形の塔身(八柱)、四角い屋根、屋根上に計5基の相輪
(※記事内の写真は2026年5月に私が実際に撮影したものを利用しています。)
