エルサレム旧市街の外、東側にあるケデロンの谷の聖地を巡るためにオリーブ山を歩いていると、山の斜面に異様な光景が広がっていました。
山の西南斜面に、白い石でできた直方体の箱が、斜面を埋め尽くすように無数に並んでいるのです。まるで幾何学的なアートのようにも見えるこの白い箱の正体は、すべてユダヤ教徒たちのお墓です。
今回は、このオリーブ山の斜面に広がる神秘的な墓地について紹介します。
斜面一面に広がる「白い箱」と黄金のドームが織りなす絶景
墓地の中に一歩足を踏み入れると、そのスケールの大きさに圧倒されます。

斜面一面に広がる大量の石の棺桶のような墓石群。山の上からこの墓地を見下ろすと、整然と並ぶ白い墓標の向こうにケデロンの谷が横たわり、さらにその先には旧エルサレム市街の堅牢な城壁がそそり立っています。そして城壁の向こう側には、イスラム教の聖地である「岩のドーム」の金色が太陽に照らされて美しく輝いています。

この「死者の街」と「生者の信仰」が隣り合わせになったパノラマは、エルサレムでしか見られない唯一無二の光景かもしれない。
なぜオリーブ山にお墓が集まるのか?「終末と復活」の預言
ユダヤ教の伝統において、オリーブ山は単なる墓地ではなく、最も神聖な祈りと「復活」の舞台とされています。

旧約聖書には、終末の日に神がオリーブ山に降り立つという預言が記されています。この預言に基づき、ユダヤ教では「オリーブ山に埋葬されている人々が最初に肉体を持って復活し、神の恩恵を最初に受ける」と信じられています。
さらに、ユダヤ教の伝承によると、イスラエルの地の外(海外)で亡くなった人は、復活の際に苦痛に満ちたプロセスを経る必要がありますが、オリーブ山に埋葬された者はその苦痛を免れるとされています。

そのため、古代から現代に至るまで、世界中のユダヤ教徒たちが「人生の最後の旅路」としてこの山に眠ることを切望し、ここに膨大な数のお墓が集まることになったのです。
お墓の「お値段」と空き事情:青山霊園のように割高で抽選なのか?
墓地内を散策していると、まだお墓が建てられていない平らな敷地や、これから新しい区画として整備されそうな場所を見かけることができます。

ユダヤ人にとって「憧れの最高峰」であるこのオリーブ山墓地。日本でいう青山霊園のように、やはり高額で抽選制なのでしょうか?

現地の埋葬ソサエティ(ヘヴラ・カディーシャ)や不動産ニュースによると、「世界で最も高価な不動産(墓地)」とも呼ばれる驚きの市場なのだそうです。
- 地元住民は「無料」、しかし海外からは「超高額」
イスラエルの制度上、エルサレムに居住する市民が亡くなった場合、一般区画への埋葬費用は無料。しかし、生前に自分で特定の区画を指名して予約(生前購入)する場合や、アメリカをはじめとする海外在住のユダヤ人が購入する場合、価格は跳ね上がります。 - 驚きの販売価格
神殿の丘や岩のドームを直接見晴らすことができる一等地の区画は、生前購入の場合、現在14万5,000〜20万新シェケル(日本円で数百万円)という高い価格で取引されています。場所によっては1区画5万ドル(約750万円以上)を超えるケースもあるという。 - スペース不足への対策
約3,000年の歴史を持つこの墓地には、すでに推定10万〜15万基のお墓が存在しており、敷地全体の8割以上が埋まっているとされています。そのため、近年では空きスペースを極限まで有効活用するために、夫婦で縦に重ねて埋葬する「重ね埋葬」や、古代の埋葬方法を再現した「トンネル・横穴式」など、様々な工夫が凝らされています。
おわりに:歴史の重みを感じながら頂上へ
白い直方体の石棺が連なる通路を歩き、3000年という時の重み、そして「復活」を信じてここに眠る人々の祈りを感じたあと、私は再びオリーブ山の頂上付近へと歩みを進めました。

山を登りきると、そこには旧市街全体を見渡す壮大な景色が広がっています。ただの美しい観光地としてではなく、その足元に広がる無数の「白い箱」に秘められた歴史、信仰、そして苦難を知った上で眺めるエルサレムのパノラマは、とても印象に残るものになりました。

エルサレムを訪れる機会があれば、ぜひオリーブ山の斜面に広がる墓地も見どころです。
(※記事内の写真は2018年12月に私が実際に撮影したものを利用しています。)
