台湾での楽しみといえば、なんといってもラーメン。昼と夜、1日2回のラーメンを楽しく食べるためには、その間にお腹を空かせておく必要があります。
今回、私が腹ごなしの目的地に選んだのは、九分のさらに奥にある「猴硐(ホウトン)」。かつて世界的に有名になった「猫村」です。台北から台鉄の普通列車に揺られ、瑞芳駅で多くの九分行きの観光客を見送り、ひと駅先の目的地へと向かいました。
駅から「猫一色」の山間の町、猴硐
猴硐は、かつて台湾最大の炭鉱として栄えた町。時代の流れとともに炭鉱が閉山し、一度は過疎化の道を辿りましたが、2009年頃から「猫村」として注目を浴び、今では日本の猫島のように多くの観光客が訪れるスポットになっています。

駅を降りると、そこはまさに「猫一色」。イラストやオブジェが至る所にあり、降りる客のほとんどが猫目当てです。みんな片手に「ちゅ~る」を携え、ワクワクした表情で村へ散策に出かけていきます。
期待と現実のギャップ:猫がいない?不愛想?
しかし、いざ歩き始めてみると、私の想像していた「猫に囲まれるパラダイス」とは程遠い光景が広がっていました。
- 猫が極端に少ない
あちこちに猫のイラストはあるものの、肝心の猫は探さないと見当たらないほど。 - 極めて不愛想
出会う猫はどれも動じず、人が差し出す「ちゅ~る」にも全く反応しません。 - 「猫のスラム街」のような光景
通りの隅っこで、まるで薬物汚染に侵されたスラム街の住人のように寝転がっている猫たち。

村全体を隅々歩きまわりましたが、猫たちはほとんど相手してくれません。猫に癒されようと思いここまでやってきたのに、がっかり感たまりませんでした。
猫村に何が起きているのでしょうか?
「猫激減」と「健康被害」
猴硐猫村は近年深刻な転換点を迎えています。
1. 個体数の激減(200匹から約30匹へ)
かつて200匹以上いた猫たちは、現在30匹程度にまで減っています。これは2015年頃から始まった不妊去勢手術が徹底された結果、新しい子猫が生まれず、当時若かった猫たちが一斉に寿命を迎える自然死のフェーズに突入しているのです。
2. 観光客の「善意」が招いた腎不全
猫たちが「ちゅ~る」に反応しなかったのは、毎日数百人の観光客から与えられる高塩分のおやつにより、多くの猫が若くして「腎不全」に陥っていると指摘されています。無反応に見えたのは、単なる不愛想ではなく、病気や過剰給餌で体調を崩していたからかもしれません。
3. 過酷な環境と病気
猴硐は非常に湿気が多く、猫にとって過酷な環境。多くの個体が猫風邪や口炎を患っており、一部の住民や専門家からは「ここは猫の天国ではなく煉獄」という厳しい声も。
現在村には「猫役所(猫公所)」という行政施設ができ、過度な給餌を制限したり、法的な保護を強めたりしています。
猫村から「炭鉱の歴史と保護」の村へ
早い段階で猫と遊ぶのを諦めた私は、村の歴史施設やショップめぐりに変更しました。

村の最も標高の高い所にあるショップが連なったエリア。
猫にまつわるカフェや雑貨屋が並んでます。

もしあなたが今、猴硐を訪れるなら、猫と触れ合うことだけを目的にすると、私のように「スラム街のような光景」に戸惑うかもしれません。
今の猴硐を楽しむために
現在の猴硐は、「猫と遊べるパラダイス」から、「残された猫たちが静かに老後を過ごす場所」、そして「炭鉱の歴史を学ぶ場所」へと変化しています。

「猫がいない」「不愛想」という現実の裏側には、命の管理と歴史の重みがありました。そんな背景を知った上で訪れると、また違った猴硐の姿が見えてくるかもしれません。
お腹も十分に空き、私は台北へと戻る列車に乗り込みました。夜のラーメン、そしてこの村で見た「命の現状」について考えながら。
(※記事内の写真は2023年8月に私が実際に撮影したものを利用しています。)
