中世の面影を色濃く残すタリン旧市街。尖塔が連なるゴシック様式の建物や、石造りの城壁に囲まれたその街並みは、まるで物語の中に迷い込んだかのような趣があります。その北西、徒歩わずか10分の場所に広がるのが、木造家屋が並ぶノスタルジックな住宅街・カラマヤ地区。

今回はカラマヤ地区に残る木造アパート群の紹介!
カラマヤ地区の歴史
カラマヤは、タリンで最も古い住宅地区の一つで、その起源は中世にまで遡る。カラマヤは現地語で「魚の家」を意味し、もともとは漁師や港湾労働者の暮らす漁村として発展。

19世紀末から20世紀初頭にかけて、ロシア帝国の支配下で鉄道と軍事施設の建設が進むと、カラマヤは工業地区へと変貌。労働者向けの木造アパートが次々と建設され、現在も残る独特の街並みを形成しました。
第二次世界大戦後、ソ連統治下では多くの区域が軍用地として閉鎖され、一般市民の立ち入りが制限される。この時期中街の発展は停滞し、外部との接点も減少した。
1991年のエストニア独立以降、カラマヤは再び開かれた街となり、歴史的建築と文化施設が再評価される中で、創造的な地域として再生していきます。
木造アパートの建築的特徴
●カラマヤスタイル(外観的特徴)
木造住宅の多くは2~3階建てで、シンメトリーを意識した整ったファサードを持ち、窓や屋根のラインには素朴ながら繊細な木製装飾が施されている。外壁には横板または縦板張りの天然木が使用され、建設当初から多彩な塗装が施されてきた。特に、淡い緑や青、赤褐色など、自然の中に溶け込む色彩が選ばれており、街並みに温かみを与えている。

●平面的特徴
内部構造は合理的に設計され、中央に階段室を配置し、左右に複数の住戸が展開される集合住宅の形式をとっている。これは、急増する都市人口に対応するための実用的な工夫でありながら、各世帯のプライバシーと居住性も確保している点が特徴的。

●配置計画
建物の多くは共用の中庭や裏庭を備え、そこでの家庭菜園や子どもの遊び場としての空間が、住民同士の交流を育む。これらの住宅は、単なる住居を超えた「共同体の器」としての役割も果たしてきた。

タリンのカラマヤ地区に立ち並ぶ木造住宅群は、20世紀初頭の都市発展と労働者の暮らしを今に伝える、エストニア独自の住宅建築の貴重な遺産。その建築には、機能性と美的感覚が絶妙に融合している。
カラマヤの歩き方
近年ではカフェ、ギャラリー、ベーカリー、デザインショップが集まる創造的な地域として若者やアーティストに人気のカラマヤ地区。

外観は歴史的な趣を残しつつ、内装はリノベーションされていることが多いです。
看板が小さく目立たないので注意深く見ないと住居なのかショップなのか見分けがつきません。
地方都市タルトゥにもあった木造住宅

エストニア第二の都市、内陸部にあるタルトゥを訪れた時にも木造住宅を見つけました。
こちらは保存状態がカラマヤより悪く、建物は歪み崩れそうになっていました。
石造りのタリン旧市街と対照的で面白い

石造りの重厚な歴史に包まれた旧市街と、木造の温もりが息づくカラマヤ。対照的なふたつの街並みは、タリンという都市の多層的な魅力を静かに物語っています。
タリンを訪れる際は、これらのスポットを巡りながら、街の雰囲気を楽しんでみてはどうでしょうか?